INTERVIEW
お客様インタビュー2018年06月04日
Boon Siew Honda Sdn. Bhd.
Hondaのグローバル体制は、「自主自立」から「協調と連携」へ。リーダーの育成が鍵
本社人事としてグローバル人材戦略を主導し、タイ現地法人に人事として赴任。その後マレーシア現地法人にManaging Directorとして赴任された安田啓一氏に、お話を伺った。
日本人か現地人材か、本社か現地法人か、ではなく グローバルでの「協調と連携」
田口: モビリティ業界では「CASE(Connected, Autonomous, Shared, Electric)」というキーワードが登場しています。このキーワードの意味を知るだけでも、業界全体が大きな変化を迎えつつあることがわかります。安田様はアジアで、どのような変化を感じていらっしゃいますか。
安田: CASEに代表されるような先進技術を搭載した四輪や二輪が走り回る、あるいは部品などのサプライヤー構造が急激に変化するといった大きな波は、アジアではまだ先の話というのが実感です。今、本格的なモータリゼーションを迎えたアジアでは、廉価で高品質な商品であることが重要です。これまで同様、そうした商売の基本をしっかりやっていくことこそ大切、という状況です。
しかし一方で、アジアでも複数の国の政府が自動車の電動化に向けて動き始めているのも事実です。目の前に広がる光景を見ていると「本当か?」と思ってしまうのですが、手をこまねいているわけにはいきません。やがて来る電動車やコネクテッド車、自動運転車の普及に備えて、政府に働きかけ、一緒にあるべき規制やインフラ作りをしていくということが、今の業界全体の課題です。
では、それをどうやって進めていくか。かつては、それぞれの国において現地人材が主導して進めるのが効果的であり自然であると考え、国ごと、あるいはリージョンごとに「自主自立」した体制を目指していましたが、電動化のような大きな話になればなる程、実は他国との連携、例えば一日の長がある国が主導、あるいは後方支援するといったことが必要になります。
また、先進技術の開発という部分については、それぞれの現地法人(以下、「現法」)で独自に対応できるパワーはありませんし、そもそも非効率です。そのため、例えば先進のモノづくりであれば日本で行います。ただし、そこには世界中から技術者を集めます。そして、その技術者たちがそれぞれの国に技術やノウハウを持ち帰るのです。
現在は、日本人がやるか現地人材がやるか、本社なのか現法なのかという捉え方ではなく、それができる体制、つまり、グローバルで「協調と連携」して前に進んでいくことを目指しています。
現状からどう動き出すかが大切
佐藤: 安田様が日本の本社でグローバル人事戦略担当として考えていたことと、実際に現地に赴任してGapを感じたことはありましたか。
安田: 考えていたことが違っていたという認識はありません。ですが、ありたき姿と現状の間の想像以上のGapを目の当たりにして、最初に取り組むべき事柄やスピード感については、少し以前の考えとは変わりました。
例えば、以前はすぐに幹部に登用できる現地人材は相応にいて、その人材を活かせていないことが課題だと考えていました。ですから現地人材の登用を阻む日本語の壁や、日本人ネットワークの壁などに風穴をあけるような施策をつくれば、すぐに現地人材を登用できると考えていたのですが、実態はやや違いました。
単純化した言い方をすれば、これまで重要な施策や案件は日本人ネットワークの中で検討・決定し、現地の人材には実行する部分だけ指示してきており、その結果としてHow to doには長けていても、What to doやWhyに弱い人材が育成されていた、という実態がありました。目上の人には逆らわない、嫌になったら辞めればいい、といった現地の文化的背景も影響していると思います。
ありたき姿を描くことは重要ですが、一気に飛躍を目指すのではなく、現状からどう動き出すかのほうがさらに重要です。少し事を急いていたかもしれないと思っています。
「貢献度の高い仕事を目指す」ことを動機付ける コミュニケーションの質と量をあげる
安田: 私事ですが、今、経営の立場になったことで、物事を今までとは異なる角度で捉えられるようになったと感じます。もっと早くこのような経験をしたかった。人材育成に関しても同じことを思います。人を成長させるには、異質な経験やストレッチが必須です。
今や、現法が自国マーケットだけを見て事業を展開することはできません。そんな環境下で、より貢献度の高い仕事(=影響力の大きな仕事)をするためには、様々なリソースの活用が必要となります。そして、そのためには、視点をあげて横串でモノを考えられることが必要になりますが、これは様々な経験をしていないと難しいことでしょう。企画やスタッフ業務だけでなく、実業の経験もないといけません。自分の専門領域だけでなく、異領域を直接経験することも必要です。このことは、私も人事領域に長年従事してきた人間として十分に認識していたつもりでしたが、今はもっともっと痛感しています。
しかし海外では、優秀と見込んだ現地人材に、ある日突然「君もグローバルHondaの一員だから、海外に赴任してほしい」といっても、「は?」といった感じになるのが普通です。地元の優良企業に入社したつもりの人材が、グループ内とはいえ別の法人に移り、かつ異国で苦労をする理由はないということでしょう。それでも、「もっと貢献度が高い仕事をするためにはそれが必要なんだ」「それが君のキャリアを開くことにもなる」と伝え続ければ、それに反応してくれる人材が確かにいることも経験しました。
経験や言葉の壁を乗り越えるためには、コミュニケーションの質と量をあげることがとても重要です。これは現法の駐在員に求められるリーダーシップの1つです。また、海外で働くことは既に特別なことではなくなっているのに、ダイバーシティの仕組みがまだまだ足りていないことにも課題を感じます。そして、「日本人のグローバル化」も必須です。
田口: その「日本人のグローバル化」という言葉の中に、色々な想いが込められているように感じます。言葉や経験の壁を乗り越える力や、柔軟性、任せて育てるリーダーシップなどでしょうか。
安田: やはり人間誰しも、自分自身で考えたことでないと自分のものにはなりませんし、成長もありません。指示すればそれに従ってやってくれるというのは楽なのですが、そこを我慢して、しっかり考えさせていくことが大事です。
Hondaマンとしての働き方は共有すべき
安田: そのためにも、働く上での価値観の共有がベースにないといけないと思います。少なくともキーマンは価値観を共有していないと、企業の総合力も上がらないはずです。決まった通りに物事が進んでいるうちはいいのですが、予期しないことが起きたり、何らかの難しい判断が迫られる場面では、許容できない行動の差が出てしまうのではないでしょうか。
これは、海外拠点だからということではなく、Hondaという同じグループの中で仕事をする上で必要なことだと捉えています
ただ、日本以外で、「人間尊重」「三つの喜び」などのHondaフィロソフィーを紹介した際に「これが会社の方針なのか」「つまり何をしろといっているのか」という質問をうけたこともあります。日本でHondaマンとして育った私たちにとっては、そこまでは必要ないと感じることかもしれませんが、現地の人材にはもう少し、具体的にかみ砕いて伝えなければなりません。
そこで、アジアの選抜されたリーダーを集めた研修の中で、Hondaフィロソフィーを具体的な行動に落とし込むセッションを行いました。すると、10年以上Hondaで働いている社員からも「初めて聞いた」という声があがりました。まだまだ共有するための働きかけが、充分ではなかったのかもしれません。
もっともっとコミュニケーションの質と量をあげることが現法の人材育成の課題です。他にも多くの業務を抱える中で、時間のかかるコミュニケーションの質と量をあげるということはチャレンジでもあります。私自身、やり切れていないかもしれません。ですが、やるべきことであることには間違いありません。
佐藤: できる限りお手伝いをさせていただければと思います。
田口: 本日はありがとうございました。